本日は物語の中に米国株投資およびブログが登場する書籍の紹介になります。
外資系食料品メーカーの事務職として働く元地下アイドルの華美は、
生活費を切り詰め株に投資することで、
給与収入と同じ配当を生む分身(システム)の構築を目論んでいる。
恋人の直幸は「使わないお金は死んでいる」と華美を笑うが、
とある人物率いるオンラインコミュニティ活動にのめり込んでゆく。
そのアップデートされた物々交換の世界は、
マネーゲームに明け暮れる現代の金融システムを乗り越えゆくのだ、と。
やがて会員たちと集団生活を始めた直幸を取り戻すべく、
華美は《分身》の力を使おうとするのだが……。
金に近づけば、死に近づく。
高度に発達した資本主義、その欠陥を衝くように生まれる新たな幻影。
羽田圭介の新たな代表作。
小説ですのでなるべくネタバレ回避的な話をしようとすると全く中身のない書評になってしまいますが、そもそも当ブログには中身がないので関係ないですね。
著者である羽田氏が投資を始めたのが2013~14年で、この書籍を書き始めたのが2014年末でしたが2015年に一度頓挫。
芥川賞受賞で取り巻く環境が変わったこともあり本作品は長らく放置されていたそうですが、最近の老後2000万円問題やFIREブーム等投資への注目が集まり始めたのを機に現代の風潮も盛り込み完成させたそうです。
羽田氏の投資開始時期が、自分の米国株参入時期と重なることもあり、投資スタイルは異なりますが本作の主人公である華美が高配当投資にのめり込む姿は、当時の風潮を思い出させてくれます。
その一方で、本作を書き始めた当初と今現在の羽田氏の投資に対する熱量は大きく変わり、現代の節約と投資に没頭する若者に対し疑問を呈しております。
主人公が目を通す「食費200円で2億円!アーリーリタイアを目指す会社員ブログ」は当ブログをご覧の皆様であれば、元ネタになっているであろうブログ(複数掛け合わせられております)が思い浮かぶ方も多い気がします。
その一方で、インフルエンサーやオンラインサロン、ネットワークビジネス等が、オウム事件を連想させるまでもなくカルト宗教や事件を学びなく繰り返している現代社会に対しても切り込んでおります。
新しい思想やライフスタイルと思われている生活様式は、ふた昔くらい前に別の言葉で持て囃されていたものではないのかという、連綿と続く若い世代を形を変えて騙し続ける情弱ビジネスへの警鐘です。
ちなみに羽田氏の単行本の新作『滅私』(新潮社)はミニマリストやSDGsをテーマにしているようです。
投資でお金を稼いでどうするのか、投資関連書籍だけではなく小説からも読み取れることはあるはずです。